山登りの足は鉄道か自家用車か
作成日:2022年12月2日
富田丘町: T.S
1964年のオリンピックの年に東海道新幹線が開通した。そして東名高速道路が全通したのは1970年頃であったと思う。その20歳の頃の夏に、いきなり北アルプスの唐松岳に連れて行ってもらった。これが本格的な山登りの初体験だった。
当時、大阪から新幹線を利用できる東京を除いて信州など遠方に行く時は夜行列車でいくのが常だった。当時の国鉄は日本中で多数の特急や急行の夜行列車を走らせていた。寝台車は贅沢で座席車を利用する人が大半だった。山に行くにしても、スキーに行くにしても、2人ずつ向かい合うボックス席の下の床に新聞紙を敷いて譲り合いながら横になるという苦労をしながらの列車の旅だった。一方自家用車の方は、高速道路も普及途上でまだ車で山登りに行ける状況ではなかった。
あれから半世紀が過ぎ、当然日本の交通事情は大きく変わった。新幹線が北は北海道から南は九州まで開通し、高速道路は日本全国に張り巡らされるようになった。その上飛行機も手軽に利用できるようになり遠距離移動が素早くできるようになった。その反面、地方の鉄道路線やそれに繋がるバス路線はすたれ廃線も相次いでいる。富士山や尾瀬など、さばき切れない程の人が押し寄せる所は別だが、登山口までのアプローチでは公共交通機関を利用するよりは自家用車を利用する人の方がはるかに上回っているのが実情である。自家用車利用の方が買い物をするにも休憩や食事をするにも、さらには時間的にも利便性が高い。しかも複数人で利用すると交通費も安価にすむ。
このような状況下でも、私はどちらかというと自家用車よりも公共交通機関を利用している方だと思う。理由の第一は自家用車ではお酒が飲めないこと。第二は私自身が高速道路での運転を苦手としているためである。苦手というのは高速道路で1時間も運転をすると猛烈な睡魔に襲われるのである。第三は列車等を利用する方が景観が豊かであり、人との触れ合いの場が多いことである。
高速道路を走っていると遠くの景色は確かに場所によって違いはあるが目の前の光景は都会地であれ、山間部であれ、地方の街並みであれ、サービスエリアであれどれをとっても代り映えがしない。それに対し例えば、四国の大歩危小歩危を列車から眺めるとはっとするほど車との違いがある。アルプス登山によく利用する中央自動車、豊橋から飯田線で伊那地方へ入れば連続の秘境駅地帯を楽しませてくれる。家々は道路に面して表を向いているが、列車からはその裏側を覗き見することができ、人々の営みや生活感を味わうことができる。今はカーナビが普及しているので道を尋ねる機会もない。サービスエリアで買い物をしても店員さんとの会話もない。その点公共交通機関を利用すると、列車に乗るにしても、バスを利用するにも、買い物をするにしても常に人に尋ねたりすることが多い。駅の出口で一瞬立ち止まっていると○○行きのバス乗り場はあちらですよと教えてくれる。さびれた売店でもあれば時間を持て余し気味の店員さんから色々と教えてもらえる。山登りという目的を達成するだけなら車の方が手軽で便利だが、公共交通機関を利用した時に得られる旅情という味わいもいいものである。
この記事へのコメントはありません。