『湖南アルプスの麓に住んで』

現在の住所大津市枝町に移り住んでもうすぐ10年になる。これまでも自宅のある田上地区は何度も先輩諸氏より紹介文書が本欄に掲載されているので、地区の歴史等は割愛し(調べ方も分からないし・・)近所にある湖南アルプス、とりわけ笹間ヶ岳の豊富で愛すべき自然の姿を紹介することにしたい。

◆4月はミツバツツジの観賞で
私にとっての笹間ヶ岳は、3月末から4月にかけて咲き誇る大量のミツバツツジの観賞で幕を開ける。
赤紫色の可憐な花をつけるこの愛すべき花は、この山のみならず他の湖南アルプスでもこの時期簡単に目にすることができる。調べてみると本種のミツバツツジは雄しべが5本とのこと。ここで咲く花は雄しべがもっとたくさんついており本種とは違うな、とは思っていたが、葉っぱは3枚でミツバツツジであることに間違いは無い。他の方のブログを見ると、どうやらコバノミツバツツジという花らしい。私にとって、この時期の花見は、田上公園のソメイヨシノと共に、笹間ヶ岳のミツバツツジである。
◆5月はカジカガエルの声に癒やされて
ここに来て間もない年の5月に天神川横の林道を歩いていると、「ヒュルヒュルルル」とか「フィフィフィ」(擬音語の表現が下手で恐縮です)という何かの鳴き声が聞こえた。最初は鳥か虫の鳴き声と思っていたが、調べてみると、なんと蛙の鳴き声であった。カジカガエルというらしい。自宅の横でいやになるほど耳にしているアマガエルとかトノサマガエルの耳障りな鳴き声とは全然違う大変美しい鳴き声であることに感動し、一度その姿を見たくなった。或る日、天神川まで降りて岩の陰で15分ほどじっとしていると、警戒を解いた蛙の鳴き声がすぐ近くで聞こえた。しめた、と思ってその顔を見ると・・・・、「見なければ良かった。」後ろ髪のきれいな女性を、前に回って顔を見た時と似たような感情におそわれた。アマガエルよりもっと目が飛び出し、まさにカエルそのもの。「天は二物を与えず」である。清流にしか住めないカエルである。天神川が未来永劫清流であることを願って止まない。

◆6月はモリアオガエルの卵に感動
モリアオガエルが池の上にせり出している木の枝に卵を産み付けることは知っていた。しかし図鑑で見るだけで、実際の卵を目の当たりにしたのはここ笹間ヶ岳が初めてである。梅雨時に産み付け、雨とともに池の中に落ちて、そこでオタマジャクシとしてすごす。調べてみると、卵の天敵はイモリだそうで、そういえば、その池にはアカハライモリがうじゃうじゃいて、密かに「イモリ池」と勝手に名付けていた。ところが、2~3年前からイモリの生息数がめっきり減った。今年は池の中に1匹しか確認できなかった。どんな自然の変化が起こったのだろう。池を覗くと、天敵が減った為だろうか、オタマジャクシが相当数確認できた。その他にも、この池には背泳ぎで泳ぐ(すなわち腹を上面に見せる)マツモムシという昆虫も多く見ることが出来たのだが、今年は一匹も確認できなかった。生態系がどう変ったのか謎である。マツモムシを見たのは小学生以来であったので、それに再会できた時は非常に嬉しかったのだが、次はいつどこでお目にかかることができるのであろうか。

◆7月はハッチョウトンボに迎えられて
勝手に名付けた「イモリ池」の周辺では7月になるとハッチョウトンボが舞う。日本最小のトンボで、多くの県で絶滅危惧種に指定されているようであるが、家から一時間ちょっとでこの生息地に行けるとはなんと幸せなことであろう。初めてこのトンボを見たときは、あまりに小さいので「赤とんぼの子ども」と思った。ところが、よくよく考えてみるとトンボの子どもは「ヤゴ」ではないか。あれは絶対大人の姿をしていた。帰って図鑑で調べると体長2cmちょっとのハッチョウトンボという種類で、赤いのが雄、黄色と黒のしましま模様が雌であることが分かった。不思議なことに雄と雌は互いに5mほど離れた場所で活動している。登山道の右側が雄、左側が雌の生息地であるように思う。これってハッチョウトンボの生態なのだろうか?詳しい方にご教示をお願いしたい。
8月はサギ草で鼻高々
先ほどの「イモリ池」からほんの少し進んだ所に、赤色の水をたたえた小さな池がある。その池の畔にお盆を過ぎた頃からサギ草が咲く。最初この花を目にしたときは、花の名前が分からなかった。しかしその花の形からして、絶対ユニークな名前の花だろうと想像はしていた。他の方のブログを読み、サギ草という言葉を目にして、あの花に違いないと確信した。まさに白鷺が羽を広げて飛んでいる形をしている。この時期になると、遠く京都・大阪方面から訪れるハイカーとよく出くわす。彼らのお目当てはこの花だ。わざわざ笹間ヶ岳までこの花を見るために訪れる訳である。言葉をかわすなかで、自分がこの山の麓に住んでいることを伝えると、皆一様に羨ましがってくれる。少々鼻が高い。なおサギ草は、比良山系の武奈ヶ岳にある八雲ヶ原湿原でも、ここより大きな群落を見ることができた。インターネット情報により、多くの方がこの山にこの花が咲くことを知り、訪れてくれるのは大変嬉しいことであるが、反面、中には心ない人がいるかもしれない。多くの人に知って欲しいのと、このままひっそりと誰にも荒らされずに毎年咲き続けて地元の人間を喜ばせて欲しいのと、気持ちが半々である。

◆自然豊富な笹間ヶ岳の紹介
この他にも、この山には多くの自然がある。春の新緑、秋の紅葉、きれいな水に泳ぐメダカ、野生の鹿、リス、猿などであるが、気を付けなければならないのはヤマカガシという毒蛇である。堂山とか矢筈ヶ岳とかの他の湖南アルプスの山ではお目にかかったことはないが、この山ではしばしば目にする。でも他の蛇と同様、人を見たら逃げて行くので、素手で捕まえようなどと考えない限り、恐れることはない。以下、山行ブログ風になってしまうが、この山の魅力を紹介することにする。笹間ヶ岳は標高433m、東京タワーより100m、近江富士の三上山より1m高い。多くの登山者は帝産バスの終点「湖南アルプス登山口」から登るが、他に関津の「上関」バス停から新茂智神社経由で登るルートもある。山頂を目指すだけなら上関からのルートの方が早いが、私は多くの自然に触れ合えるアルプス登山口ルートをお奨めしたい。バス下車後、天神川の横をしばらく歩くと、右手に登山口が現れる。この手前には車が3台ほど停まれる空きスペースがあるが休日はほぼ満車で、道路脇に停めている車も多く見受けられる。さていよいよ登山のスタートである。
◆突如出現した巨岩
登山口から20分くらいで登山道を塞ぐ巨岩に出くわす。3年ぐらい前から現れたと思う。それ以前はこんな障害物は絶対に無かった。一体どこから転がってきたのだろう?上から落ちてきたのなら樹木がなぎ倒されているはずであるが、そんな痕跡は無い。この道の左側を流れている谷川が、台風か何かで増水して、その流れに乗って巨岩が流され、この場所に落ち着いた、と考えるのが自然であろうがそれにしても、こんなに大きくて重い物が・・・。水の力の脅威を思い知らされる。

◆アヒル岩とプンプン岩
巨岩からしばらく歩いて後ろを振り返ると、写真の様な面白い岩を見ることができる。誰一人気にもとめないと思うが、私はこの岩に勝手に名前を付けている。一つはアヒル岩。岩に付いているコケがアヒルの目、岩の下部に見える横線がアヒルの羽、左側に尻尾が跳ね上がっている。ところがやはり3年ほど前から台風の影響か、アヒルに見えた嘴が崩れ落ちてしまった。魚が口を開けている様に見えてしまうので、今ではシャチホコ岩と命名する方が似合いそうである。口の下に崩れ落ちている岩が見えるが、昔あれは嘴だったはずである。アヒル岩(シャチホコ岩)の右上にある岩は今も健在。怒っている人の顔に見えませんか?プンプン岩とは言い得て妙だと思う。勝手に命名するのも山歩きの一つの楽しみ方であると思う。
◆楽しい沢登り
しばらく歩くと写真の様な岩場に着く。これらの岩の間を谷川が流れていて、道なんて無いので、自分で安全かつ濡れないルートを探して沢登りすることになるが、これが大変楽しい。中には滑りやすい岩もあるので注意が必要だが、何回も通っていると、どの岩が滑るのか段々分かってくる。冬場は表面が凍るので、より慎重さが求められる。

◆このルート最大の池
沢登り後、前述の「イモリ池」とサギ草の咲く赤い池を過ぎると、多分湖南アルプスで最大の池にでる。覗くと、種類は分からないが多数の魚が泳いでいる。或る日この池の登山道脇を体長1.5mはありそうな(その時はそう思った)巨大ゴイが泳いでいるのを見た。同行者もびっくりするくらいの大きさで、南郷水産センターで見られる大型種よりも遙かに大きかった。多分この池の主だろうと想像する。その後何十回もここを通ったが、二度と現れない。羽が生えて飛んで行くはずは無いので、まだ主として君臨しているのか、それとも寿命尽きてゲンゴロウの餌になってしまったのかは定かで無い。
◆斧の泉
しばらく歩くと白い砂の多い河原にでる。頂上へはここを右方向に進むのだが、私は必ず100mほど左に寄り道するようにしている。気に入ったスポットがあるからだ。澄んだ水をたたえるこの池は水深もあり、メダカが泳いでいる。今年の6月には、ここでモリアオガエルの卵も見ることができた。池の畔に座ると聞こえるのは、水の流れる音と鳥の鳴き声のみ。(たまに上空を飛ぶ飛行機のエンジン音が聞こえて興醒め)「あなたの落とした物は、この金の斧ですか?」と言って女神が現れないかな、というメルヘンチックな気分にさせてくれる。そこでこの池を「斧の泉」と命名した。6月からはこの泉のまわりにモウセンゴケという食虫植物を見ることができる。癒やしのひとときである。

◆頂上へ
登山道に戻り、ここからは傾斜がちょっと急なアップダウンを繰り返し、一気に頂上を目指すことになる。途中、登山道が一瞬アスファルトの道に成り興醒めではあるが、7月にはそこでヤマモモの実が観賞でき、改めて笹間ヶ岳の豊富な自然を感じさせてくれる。登山道はすぐに山道に戻り、そこからは10分もかからずに頂上にたどり着く。笹間ヶ岳の頂上は大きな一枚の岩だ。八畳岩と言う人も居る。これをよじ登るのだが、この写真の左側裏には、どなたか親切な人が梯子をかけてくれているので、それを使えば安全に頂上に到達できる。頂上からの展望は抜群で、晴れた日には比叡山や比良山系も見渡せる。右手には近江富士も望めるが、樹木が邪魔をしているので、かなり岩の前面に身を乗り出さないと見ることができない。間違えて、身を乗り出しすぎると一巻の終わりである。ご注意を。ある夏、この岩に国蝶のオオムラサキがとまっていたので写真で撮った。しかしその携帯が水没してしまい中のデータはすべて消去されてしまった。私がスマホデビューするきっかけとなった事件だが、本当に勿体ない。次はいつ自然のオオムラサキと出会えるのだろう。それまで長生きしなくては。笑)

◆まとめ
訪れる度に異なる自然を感じさせてくれるので、勘定していないが、かれこれ50回以上は登頂しているはずである。それでも人を飽きさせることの無いこの山の散策が私は大好きである。登山口から1時間半もあれば頂上にたどり着ける低山である。日帰りどころか午前中で往復も可能だ。午後は別のことができる。登山口までは自転車で行けるので、発生費用はガソリン代も含めゼロ。費用対効果抜群の娯楽である。長文になって、興味の無い方には大変退屈だったと思うが、山行(さんぎょう)報告の精神を発揮したと思って 笑)どうかお許し願いたい。ここまで書いて、本稿は「私の住む街」の紹介であったことに気がついた。そこで以下結論を書くことにする。
◆結論
と、まあ、こんな山の麓に住んでいます。(おわり)

 2020年12月  大津市在住  木戸 彰さん    

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP