”幽玄の世界を求めて30有余年”
枚方市山之上5丁目在住
2011年2月10日 取材
1.取材訪問
取材会場の南部生涯学習市民センターに「謡曲」の台本、出演された「能」の写真等沢山の資料をお持ちいただき 当初から前田さんのペースで大変熱っぽく説明をはじめられましたので、前田さんの「能」にかける熱意の程を強く感じました。あらかじめ取材の質問事項をお送りしてありましたが、その回答を文章にしたためられ、それを我々取材班に頂き、それをベースにいろいろご説明を頂きましたので、取材が大変楽であったとともに取材内容が正確であったと思います。
2. 経歴と動機
前田さんは神奈川県川崎市のご出身で1941年(昭和16年)のお生まれで今年70歳になられます。松下電器に1963年(昭和38年)に入社され、本社人事部門等に勤められて1999年(平成11年)に定年退社されました。「謡曲」との出会いは、本社勤務時に職場の同僚が謡曲同好会で稽古をしているのを見学に行った時に始まり、日本の文化・古典伝統芸能に触れてみたいと思うようになったのがきっかけで、「能」を始める事になり、1977年(昭和52年)36歳の時から古希を迎えた今日まで33年間 「謡曲」と「仕舞」をやって来られました。
3.「能」における活動
今回の取材に先立ち「能楽」について全く素人の取材班に対し、「能楽」の入門知識を前田さんから入れていただきましたので、先ずそれを簡単に説明させていただきます。
「能楽」は約600年前の室町時代にできた舞楽で、囃子に合わせて「謡曲」を謡いながら演じるものであり、前田さんがやってこられた「能」の流派には観世流、宝生流、金春流、喜多流等があります。 そして「能」の台本が「謡曲」と「仕舞」であり、「能」の演目には初番目物、二番目物といった曲籍と、神物、修羅物といった曲柄と、神霊、武士の霊といった主人公とがあります。
初番目物の曲例として高砂、老松等が、二番目物には清経、実盛等があり、各演目には、主人公を演じるシテ、その脇役となるワキ、シテやワキについて登場するツレがいて、演目のクライマックス部分である「仕舞」になると、その「仕舞」をシテが演じるというのが「能」の大きな流れのようであります。 前田さんは現在、関西に拠点のある観世流能楽の「梅春会」と、パナソニックOB・現役で構成されたパナソニック謡曲同好会「松謡会」に所属し、「梅春会」では重要無形文化財、観世流師範の井戸和男先生のご指導で「謡曲」と「仕舞」の稽古を月3回のペースで受け、年4回の発表会「初謡会」「春の会」「ゆかた会」「秋の大会」に出演し、「松謡会」でも同様、年4回の発表会に出演しておられます。
最近の記憶に残る活動としては、昨年10月に前記井戸和男先生の会「梅春会 秋の大会」大阪能楽会館で前田さんの「古希」の祝いとして半能「山姥」を演じられたことがあります。 これまで前田さんは趣味として33年間「謡曲」と「仕舞」を続けてこられましたが 、その集大成として「古希」の祝いに初めての「能」を、半能「山姥」で挑戦され、約40分間前田さん独りで謡う場面あり、 掛け合いあり、仕舞あり、動きも静かな場面もあれば、激しく動く場面もありの独壇場の能舞台を見事演じられ、終わった時に安堵感と感動で能面の中を涙が溢れ出たと申されておられました。 指導された井戸和男先生は、その涙を「やり遂げたという感じ」「心からの喜びを感じる」ときのもので「随喜の涙」というものだと仰せられたとのことでした。
前田さんにとって半能「山姥」は初めての「能」であり、しかも、一緒に出演される他のメンバーは全員日本のトップクラスのプロの先生方ばかりであり、大勢の皆様の前で恥をかかないように演じるために大変な稽古をされたそうです。本番8ヶ月前の3月から稽古を始め、先ず「謡曲」を台本なしで謡ったことがないのにも係わらず、自分の謡う箇所だけではなく、相手方の謡う箇所も含めて山姥」の「謡曲」40分間全てを覚え、「謡曲」を覚えた後も先生から「能」の「型」や「仕草」といったものを色々教えて頂き、体に「能」を覚え込ませねばならなかったとのことでした。また能面をつけますので能面の中から見える視野はほんの小さな穴を通して見える狭いものになり、能面をつけて頭と首を鬘でがっちりと固められ、重い能衣装を着けますと、身動きがとれず立っている下の舞台も見えないという不安定な状態で演じなければならないとのことでした。
4.「能」の心構え
前田さんに「能」をする時の心構えをお聞きしますと、「謡曲」の「曲趣」をよく理解して謡い舞うこと、「序・破・急」のとり方に心がけて謡い舞うこと、舞台の上では「すり足」で移動すること、「間の取り方」「腰の入れ方」「背筋を伸ばす」「力まかせにしない」「上半身を動かさない」に注意することだそうです。「能」をする人への助言としては、「姿勢正しく」「胸をはり」「肩を落とし」「胸で息をせず」「腹で謡う」ことだそうです。前田様の目標は「喜寿」の祝いに再び「能」を披露できるように健康に留意して一層の精進をしていくことだそうです。
<取材:梅原、鬼頭、吉川、倉橋 HP作成:鬼頭 WP編集:吉川>